マハー・ムドラーの詩 ティロパ(988~1069)
マハムドラーはすべての言葉とシンボルを超越せり
されどナロパよ
真剣で忠実なる汝のために、この詩(うた)を与うべし
空は何ものも頼みとすることなく
マハー・ムドラーは何ものにも依らず
労せずして
ただゆったりと自然のままであり続けることにより
人はくびきを打ち壊して
解放を成就するなり
中空を見つめて何も見ず
そのとき心によりて心を観れば
人は差別を打ち壊し
ブッダフッドに到るなり
空をさまよう雲たちには
根もなく家もなし
心を漂いよぎる
差別の思いもまたしかり
ひとたび自性心の見られることあらば
識別は止まん
虚空には形や色がつくられるも
虚空は黒白に染まらず
自性心よりすべてのものは現れ出でるも
心は善悪に汚されることなし
久しい暗闇も
灼熱の陽を覆うことあたわず
サムサーラの長いカルパ(永劫の時)も
心の輝ける光を隠すことを得ず
空を説くに言葉の語られることあれど
空そのものは表わされ得ず
『心は光のように輝ける』と言うも
そはすべての言葉と表象を超越せり
本質において心は空なれど
そはすべてのものを抱き容れるなり
体に於いては何もせずしてくつろがせ
口を堅く結びて沈黙を守り
心を空しくして何ものも思わざれ
中空の竹のごと、汝の体をゆっくりとくつろがせ
与えずまた取らず、汝の心を休ませよ
マハー・ムドラーは何ものにも執着せざる心のごとし
かくのごとく行ずるによりて、やがて汝はブッダフッドに到らん
マントラ(真言)やパーラミター(到彼岸の菩薩行)の行
スートラ(経典)や訓戒の示すところ、宗門や聖典の教え
そは自性の真理の実現をもたらすことなし
心が欲望に満たされて
目標を追い求るなら
そはただ光を隠すのみなればなり
いまだ識別を離れずして、タントラ教理を持するもの
サマヤ(悟り)の精神にそむくなり
すべての行動を止め、すべての欲望を破棄せよ
あらしめよ、大海の波のごと
思考の浮き沈むを
とどまらざることのみか
無差別の原理をたえてそこなわぬもの
タントラ教理を鼓舞するなり
切望を避け
あれこれに執着せざるもの
経典の真意を識るなり
マハー・ムドラーにおいて、人のすべての罪は焼かれ
マハー・ムドラーにおいて
人はこの世の獄より解き放たれん
そはダルマの至高の燈
そを信じぬものは愚者なり
とこしえに不幸と悲しみにのたうとう
解脱を目ざすに
人はグルに依るべし
汝の心がその祝福を受けるとき
解放は間近なり
ああ、この世のすべては無意味にして
ただ悲しみの種子ばかりなり
小さき教えは行ないへといざなえば
人は大いなる教えにのみ従うべし
二元性を越ゆるは王の見地
散漫さを征服するは王者の行
行なき道はすべてのブッダたちの道なり
その道を踏むものブッダフッドに到らん
はかなきかなこの世
夢や幻のごと、そはいかなる実体をも持たず
そを捨てて、血縁を断てよ
欲望と憎しみの糸を切り
森や山にありて瞑想せよ
もし労することなく
ゆったりと『自然な境地』にとどまるなら
やがて汝はマハー・ムドラーを勝ち取りて
無達成なるものを達成せん
木の根を断てば葉は枯れん
汝の心の根を断てばサムサーラは倒れん
いかなる燈の光も一瞬にして
長きカルパの暗闇を払う
心の強烈な光はただ一瞬にして
無知なる覆いを焼かん
心に執着せるものの
心を越えたる真理を見ることなく
ダルマを行ぜんと努める者の
行を越えたる真理を見いだすことなし
心と行をふたつながら越えたるものを識らんには
人はきっぱりと心の根を断ち切りて
裸眼をもちて見つめるべし
かくして人は一切の差別を打ち壊して
くつろぎにとどまるべし
与えずまた取らず
人はただ自然のままにあるべし
マハー・ムドラーはすべての容認と拒絶を越えたるがゆえに
アーラヤ(存在の本体)は不生にして
誰もそを妨げ汚すことあたわず
不生の境界にとどまるなら
すべてのあらわれはダルマター(万有の本体=法性)へと溶解し
すべての強情と高慢は無の中に消滅せん
至高の理解は
あれこれの一切を超越し
至高の行為は
執着なくして大いなる富を抱く
至高の成就とは
望みなくして内在を知ることなり
はじめヨギーは、おのが心の
滝のごとく転落するを感じ
中ほどにてはガンガーのごと、ゆるやかにやさしく流れ
ついに
そは大いな大洋なり
母と子の光が一つに融け合うところ